エゾシカの変わり角

今回はバックアンドクラフトで販売中のこちらの剝製について、製作者の岩松さんにお伺
いしました。


実はこちらの剥製はかなり珍しい一品なのです。

鹿の変わり角

写真を見てお気づきの方も多いかもしれませんが、こちらの剥製の鹿は角が 5 つに枝分か
れし、左右対称になっています。
通常鹿の角は四本に分かれており、五つにわかれているというのはなんとも珍しいことで
す。
左右対処というのもポイントです。
鹿は体に怪我をすると“変わり角”と呼ばれる左右非対称な角に変形すると言われていま
す。
原因は明らかではありませんが、ケガをかばう為に片側の角が変形すると考えられていま
す。
つまりこの変わり角は、ケガによる変形ではではなく、ひとつ大きく進化した形なのだと
いえます。
果たしてどんな経緯でこの鹿を仕留めたのでしょうか?

出会い

北海道の道東・浜中町で鹿肉の加工、販売を行う岩松さんは自身で狩猟も行っています。
ある時、群れを率いるこの鹿を発見しました。
ただ珍しい角を持つだけでなく、風格を漂わせていた「彼」は、岩松さんに気が付くとす
ぐにその場を離れていきました。
それからというもの、岩松さんは仕留めるチャンスを伺うために来る日も来る日も「彼」
の元へと通います。
どうやら「彼」は車が森に近づいた時点で岩松さんに気が付くようで、一切のスキを見せ
ません。
そこで岩松さんは一計を講じました。

吹雪の日に


「彼」が家畜用のエサを盗み食いしていることを突き止めた岩松さんは、ある吹雪の日に
森へと向かいました。
吹雪が音と気配を消してくれると踏んだのです。
さらに念には念を入れて車を遠くで降り、徒歩で森へと入っていきました。
少し先も見えない吹雪の中、岩松さんは匍匐前進で風下から「彼」がいるであろう餌場を
目指しました。
そしてたどり着いたとき、「彼」を仕留める千載一遇のチャンスが巡ってきたのです。
岩松さんは落ち着きを払い、首から上の頸椎を狙って発砲しました。
「彼」は撃たれたことにも気が付かず、雪の上に倒れました。

危険な狩り

このように動物を狩って暮らしている岩松さんは、当然、危険な目に合うことも多くあり
ます。
以前、岩松さんが弟子を連れて狩りに行った時のことです。
岩松さんが少し目を離したすきに、弟子がクマに襲われてしまいました。
岩松さんが発見した時には、すでに弟子は倒れており、立ち上がったクマがまさにトドメ
を刺そうとしているところでした。
慌てた岩松さんは咄嗟に銃を構え発砲しました。
しかし焦りからか、狙いを外してしまいます。
銃声を聞いたクマはさらに興奮し、再び弟子に襲い掛かろうとします。
そこで岩松さんは瞬時に冷静さを取り戻し、2 発目でなんとかクマを仕留めたのでした。

命のやりとり

インタビュー中に印象に残った一言がありました。
狩りとはどんなものなのか、その問いに岩松さんは「命のやりとりなんだ」と話してくれ
ました。
森に入れば人間は狩る側だけではなく、狩られる側でもあるのです。
そんな状況に身を置き、生きるために自らの命を危険にさらし、相手の命を奪う。
命というものに感謝しながら。
ある意味ではフェアとも思える、厳しい自然界で生きる岩松さんがいうからこそ「命のや
りとり」という言葉が深く、重く感じるのでした。

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